初めに ~SLAMを知ろう~

近年測量・計測業界で目覚ましい発展を遂げてきている技術がレーザースキャン技術です。従来は卓上型のスキャナがメインで比較的小さいものが対象となっておりましたが、GNSS・IMUなどの計測技術の発展や小型で高性能な処理チップの開発により、小型軽量なスキャナが開発・販売されるようになりました。

その中で卓上型から発展したのが、定置式スキャナで作業性を向上させるべく開発されたのが、SLAMレーザースキャナです。SLAM( Simultaneous Localization and Mapping = 地図と位置の同時推定)とは移動の経歴と外部環境の計測を同時に行い、独自の地図情報を作成することでその環境における自己位置を確定する技術で、これにレーザー計測技術を組み込んだものをLidar SLAMと呼んでいます。

SLAM技術を利用することで、レーザースキャナの移動に対して計測原点を移動させることが可能なため、移動と計測を同時に実施することが可能で、定置式と比較してデータ取得効率が非常に高く、適応環境の幅を広くとることが可能となります

一方、定置式と比較し内部の部品点数、特にGNSS/IMU/集積回路などの高価格部品が増加することにより機器の価格が高騰しやすい事と解析処理に特別なソフトウェアが必要になるなど、導入コストが定置式と単純比較して高くなりがちという欠点が存在します

5機種のスペックを比較

ここで日本国内で販売されている各社のSLAMレーザースキャナの一般性能を比較してみましょう
各社が公表しているスペック項目には差がありますので共通している項目に絞ってスペックの整理を行いました、また精度についてはメーカーが公表している最も良い値を採用しています。

品名Orbis PremiumSLAM100
/X120GO
RS10/
Terra SLAM
SLAM200
/X200GO
RS10 (32-lines)
メーカー/OEMFAROFeimaROBOTICS
/STONEX
CHCNAV
/TerraDrone
FeimaROBOTICS
/STONEX
CHCNAV
相対精度5mm2cm1cm1cm1cm
絶対精度5cm5cm3cm5cm
点群厚み2cm5mm1cm
稼働時間3h2.5h1h1.2h1h
記憶領域512/1,024GB32GB SDカード512GB SSD512GB SSD512GB SSD
IP保護等級IP54IP54IP64IP54IP64
重量3.1kg
(本体+バッテリー
+ロガー)
1.6kg
(バッテリーなし)
1.9kg
(RTK バッテリ含む)
1.9kg
(バッテリ含む)
1.7kg
(RTK バッテリ含む)
計測範囲~120m0.5m~120m0.05~120m0.5~300m0.5~300m
レーザー照射範囲360° × 290°360°×270°360°×30°360°×270°360°×30°
レーザー照射数3216163232
スキャン速度64万点/秒32万点/秒32万点/秒64万点/秒64万点/秒
リターン数1233

SLAM100の特徴

中国のFeima ROBOTICS が開発したSLAM100は同社が初めて開発したSLAMレーザースキャナです。
初代ということもあり、バッテリーは18650バッテリーというバッテリーセル4本をグリップに格納する方式であったり、GNSS モジュールはアンテナと共に完全に個別機器を接続する必要がありました。
それ以外にも、データストレージはSDカードの為、データ転送の際はカードリーダーが必要でグリップやベースプレートの固定がねじ式など、設計がまだ洗練されていないことがよくわかる作りでした。

一方リアルタイム処理の搭載やループスキャンが不要等、最新技術を搭載しているなど革新的な機能を持ってリリースされたSLAMレーザーです。
日本国内での販売数は多くありませんが、STONEX へOEM提供しているため、STONEX から購入し使用されている方の方が多いかもしれません。

SLAM200の特徴

SLAM100の販売以降SLAM1000やSLAM2000を経て開発されたのがSLAM200です
SLAM100と比較して、グリップと統合されたバッテリーはUSB Type-Cでの単独充電を搭載し、ワンタッチ固定となったことでバッテリー切れの際のスムーズなバッテリー交換が可能となった他、本体の充電ポートを使用してモバイルバッテリーの使用も想定されています。
(グリップバッテリーはSLAM1000/SLAM2000と共通です)

また、SLAM100ではSDカードであったストレージは512GBの内蔵SSDへ変更され、USB Type-Cでのデータ転送が可能になった他にGNSSモジュールが内蔵となり、レーザー照射角度を確保するためレドームではなく小型のアンテナは本体後方に取外し式での搭載となっております。
Visual SLAM 機能が追加されたことでGNSS/IMU に加えて、画像による自己位置判定が可能となりました。これにより構造的特徴に乏しい環境や屋外/屋内/地下などの環境を問わない計測が可能となりました。

Orbis Premiumの特徴

Orbis Premium は当初GeoSLAM社が開発していたSLAMレーザースキャナをFARO社が買収した結果誕生しました。スキャナ本体とバッテリー付データストレージは給電及びデータ転送ケーブルで接続する構成はGeoSLAM 社時代に確立され、現在も最適化がすすめられています。
一方で基本的な利活用方法としては大きな進化をしておらず、搭載しているLidarのスペックは他社製SLAMレーザースキャナと比較して、計測可能距離が劣っているという面もあります。

Orbis Premium の最大の特徴は非常に高い計測精度で最大で5mmの相対精度を誇ります。また定置式レーザースキャナと共通化された後処理ソフトはクラウドベースでの利用やモデリングへの展開が可能でスキャン作業以外の面で、他社にはない特性を備えています。

RS10の特徴

RS10はGNSSアンテナを内蔵しており通常のGNSS測量器と同程度の測位が可能となっています。
搭載されているLidar は2パターンあり、計測可能範囲で区分けを行うことができ、最大120mと最大300mです。詳しいスペックを比較するとSLAM100/200と同等であることから、搭載されているLidarが同一スペックであることがうかがえます。

一方GNSSアンテナが本体上部を覆うように配置されているため、上方の計測性が悪化しており特定の計測ミッションでは同一地点を複数回通過しなければデータに致命的な欠陥が生まれてしまう恐れがあります。

SLAMレーザースキャナの選び方

SLAMレーザースキャナは一般的に数百万円と高価な機材となり、失敗したくない買い物となります
ここでは個人的にSLMAレーザースキャナの購入に際し、ぜひ確認していただきたい4つの事項についてご説明いたします

利用環境を想定する

SLAMレーザースキャナを使用する環境・場面はどのような場所でしょうか?
地下道?市街地?幹線道路?光波測量は実施済みですか?GNSS 環境下ですか?

Orbis Premium にはGNSSモジュールが内蔵されていませんが、他の機種には搭載されています。これはGNSS 環境下での計測が多い場合、Orbis Premiumを採用するメリットが少なく、ほかの機種を導入した方が計測の利便性が向上しやすくなります

その他にも幹線道路の計測が多い場合、MMS(Mobile Mapping System)的な使い方が提案されているSLAM100やSLAM200 を導入すれば作業性の向上に資することが可能です。

このように何ができるかも大切ですが、何がしたいかを把握することが大切です。

手持ちの機材との相性を確認する

すでに定置式スキャナをお持ちであれば、同一メーカーのSLAMレーザースキャナを導入されるべきです。なぜならば、計測されたデータの形式はそのメーカー内で統一されていることが多く、これにより後処理用ソフトウェアの統一につながるからです。

ソフトウェアが統一されている場合、処理フローやソフトウェアの取り扱いをはじめから学習する必要がない他、ソフトウェアの追加購入が不要であったり、定置式スキャナとのデータ統合が容易になるなど購入前に実感することが難しいメリットを享受することが可能となる場合があります。

特にFARO社のOrbis Premium は処理ソフトが複数存在し、その中には定置式スキャナのデータとの統合をうたっているソフトも存在します

確認する機材はスキャナだけではありません、GNSS測量器やトータルステーションをお持ちの場合、SLAMレーザースキャナに搭載されているGNSSモジュールに高精度を求める必要は無くなります。基本的な後処理には基準点補正処理が搭載されており、個別に計測した座標情報を用いて後処理データの計測精度を向上させることができますが、このような計測機器をお持ちでない場合は、極力高精度なGNSSモジュールを搭載した機種を選定する必要があります。

基本的な自分のスキルを確認する

簡単・ワンマン計測・ワンボタン後処理 などの一見簡単に計測ができ高精度なデータが取得出来るような文言にひかれて機種を選定すると、事前知識ありきでの対応を求められ導入後に意外と作業コストがかさんでしまう様な場合があります。

また、点群データの処理においては根気よくノイズ処理を行える几帳面な性格が必要であったり、点群処理ソフトを十全に使いこなせる、という個人スキルが必要になります。
それ以外にもGNSS 測位における禁則事項やIMUが不得意な挙動、Visual SLAM で発生しがちな計測誤差要因などを知っているか・いないかで導入機種を選定する必要があります。

マニュアル・手引きの整備性を確認する

日本国内メーカーが製造販売しているSLAMレーザースキャナは現在ありません。
ということは海外メーカーの日本法人又は輸入代理店が作成した日本語マニュアルまたは英語マニュアルを読み解いて使用することになります、日本語マニュアルの整備が遅れている様なことは様々な業界で生じています。

日本語マニュアルの整備が遅れがちな場合、新機能がリリースされても英語マニュアルのみ改訂さているという状態となるので、手探りでの対応が必要となってしまいます。また、マニュアルに詳細な記述がない場合も存在します。ぜひ一度、導入前にメーカーHPや販売代理店HPを確認していただき、新機能に関する解説や分かりやすい機能解説がされているのか確認をお勧めいたします。

また、マニュアルの入手性はぜひ導入前に確認してください、商品に同梱されている紙ベースではなく電子データの方です。電子版が無い場合、新機能がリリースされた際にどのようにして機能の紹介をしているかをご確認ください。